視察報告-東京都江戸川区・仙台市

出張者:森山きよみ・ふじくぼ博文・平山タカヒサ


【日程】   2018年11月13(火)10:00~11:00

【場所】   東京都江戸川区

【調査事項】 「子どもの成長支援」特に、おうち食堂とKODOMOごはん便

【対応者】  子ども家庭部児童女性課 課長・成長支援係 係長

 

【調査概要】 

(1)江戸川区の概要と特徴
 ①総面積49.09㎢(東西約8㎞、南北13㎞)の東京都の東端、 隣は千葉県、人口695,699人、339,502世帯、平均年齢43.38歳、年少人口90,961人区立小学校 71校、区立中学校 33校、
 ②年間5,977人の出生で子どもが多く、年少人口率が高い。年間6,642件の婚姻と1,861件の離婚、23区中1番目にひとり親家庭の割合が高い。従来から地域力を活かした子育て支援施策があった。(保育ママ制度、すくすくスクールなど)

(2)従来からの子育て支援事業
 ①保育ママ制度(昭和44年~)     保育ママ200人がゼロ歳児352人を自宅預かり
 ②乳児養育手当(昭和44年~)     ゼロ歳児家庭保育への支援 月額13,000円
 ③私立幼稚園保護者負担軽減補助(昭和50年~) 月額26,000上限、入園料補助80,000円
 ④乳幼児医療費助成(平成6年~)    現在は、中学生までの子ども医療費助成
 ⑤青少年の翼(平成15年~)      中高生60人を夏休みに3カ国へ(今年はイギリス、オーストラリア、ニュージーランドへ)
 ⑥すくすくスクール(平成17年全小学校実施) 1~6年定員なしで、学校内で延べ27,000人の地域ボランティア団体が世話する。
 ⑦チャレンジ・ザ・ドリーム(平成17年~)  全中学校二年生を対象に職場体験

(3)実態把握のための調査
 ①「子どもの貧困」をはじめ、子どもや子育て世帯が抱える課題について、地域の関係者や区職員が日頃見聞きする実態、または過去に直面した事例を把握し、状況改善に資する方策を見出していくための調査を実施。
 ②調査対象:学校、すくすくスクール、保育園・幼稚園、民生児童委員、保護司、関係部署の区職員等
 ③調査期間:平成27年11月~12月 子どもの生活実態調査 約1,500人
       平成28年11月    子どもの食についての調査 約2000人
 ④調査で得られた事例
  ・学習面での課題
  ・子どもの日常生活に関する課題
  ・保護者の日常生活に関する課題
  ・経済面での課題
  ・子どもの食についての課題


(4)健やかな子どもの成長支援
 ①ひとり親家庭の学習支援の概要(予算39,569千円)
  ・えどさく先生   :大学生等ボランティアを中学生家庭に派遣(40人年36回)
  ・さくら塾     :大学生等ボランティアの中学生支援(120人年36回)
  ・さくら塾ジュニア :大学生等ボランティアの小学生支援(25人年36回)
  ・さくら予備校   :大学生等ボランティアの高校生少人数指導(30人年36回)

 ②その他学習支援
  ・放課後補習教室  :希望する児童生徒が全ての小中学校で実施(年35回以上)
  ・1655勉強café   :大学生等ボランティアが中高生指導(6館各20名週1回、予算10,498千円)
  ・進学支援     :生活保護家庭の中高生の塾代・大学受験料を助成、学習支援ボランティアを派遣
             (予算33,669千円)
  ・次世代育成支援  :生活困窮者自立支援制度の専門的な支援員による不登校の子どもの家庭訪問・
             登校の促しと学習支援(予算8,639千円)

 ③子どもの居場所づくり
  ・e-りびんぐ    :小中高生に総合的な支援を行い、生きる力を育成する。子ども食堂もある。
               (コミセン1カ所60名、週6日、予算29,321千円)
  ・なごみの家    :地域包括ケアシステム拠点学習支援として学習支援や相談活動を実施、子ども食堂も
               (10名程度、週1回)

 ④食の支援
  ・おうち食堂    : 0~18歳未満を対象に買い物から調理、片付けを行う食の支援ボランティアを派遣。
                (30世帯、年48回を上限、予算11,612千円)
  ・KODOMOご飯便:幼児~中学生程度の自己負担100円でお弁当を宅配。所得制限あり。
                (100名、年48回を上限、予算1,919千円)

(5)おうち食堂とKODOMOごはん便事業について
 ①実施の背景:
 6年ほど前から子どもの貧困が指摘され、各地でフードバンクや子ども食堂の取り組みがはじまった。一方で現在、22カ所ある子ども食堂に「来られない子ども達」をどの様に救っていくのか論議となり、29年8月から、手上げ方式ではなく、民生委員や学校の紹介でアウトリーチ型での直接支援をはじめた。

 ②おうち食堂の実施スキーム:
 市は、民生委員や学校などの情報で食事が心配な子ども達の家庭を訪問し、内容を説明し保護者の同意を得る。市が委託しているNPO法人に連絡し、買い物から調理、片付けを行う食の支援ボランティアを派遣。ボランティアはNPO法人経由で報告書を提出する。費用は支援員報酬1,250円/時間、材料費子ども一人500円(二人目250円)全て市の負担。


 ③KODOMOごはん便事業の実施スキーム:
 同様な情報に対して、家に入ることを拒まれる世帯に対して自己負担100円で(1食当たり370円区負担)、仕出し弁当組合の協力でお弁当を宅配する。
尚、対象は住民税非課税世帯としている。

 ④両事業の効果と課題:
 現在、おうち食堂を30世帯70人、KODOMOごはん便事業を48名が利用している。ボランティアの掘り起しや継続的支援、他事業の活用や応用などが課題である。

≪所感≫
(1)今回は、おうち食堂とKODOMOごはん便事業を中心に調査を実施したが、江戸川区は、従来から子育て支援事業に手厚く取り組まれてことを改めて知った。健やかな子どもの成長支援の事業実施の背景には、多くの学生や地域ボランティアの方々が関わっている印象を受けた。施策を実施する受け皿のボランティアが育っていることで施策が円滑に実施されているようだ。まさに江戸川区の「地域力」と言えよう。

(2)生活困窮世帯は、経済的な問題だけではなく、人とのつながりが乏しく地域でも孤立しやすい「関係性の貧困」とも言われ、子ども食堂の存在などの必要な支援情報を得にくいという問題も抱えている。民生委員や学校などの情報で食事が心配な子ども達の家庭を市が訪問し、内容を説明し保護者の同意を得てから始める事から、相互に理解して進められる。また、食の支援ボランティアからの報告書や仕出し弁当組合からの情報などで、対象者の就労や健康状態の把握など、新た必要な施策展開の入り口として活用できるなど、手上げ方式からアウトリーチ型の利点であろうと思う。

(3)本市においても「子ども食堂」が増えてきているが、一方で周囲から「お金がない」と見られることを気にして来られない子ども達もいると思われる。その様な子ども達の為にも導入を検討すべきであると思う。

 

 


【日時】   2018年11月13(火)11:00~12:00

【場所】   東京都江戸川区  
                           
【調査事項】 保育士サポート事業

【対応者】  子ども家庭部子育て支援課 課長


【調査概要】
(1)待機児童の現状  各年度4月1日現在

年 度 24 25 26 27 28 29 30
就学前人口 38,446 37,366 36,974 36,815 36,865 36,816 36,436
保育園申込数 3,481 3,510 3,880 4,165 4,597 4,841 5,035
保育定員数※ 11,813 11,909 11,677 11,717 12,010 12,479 13,527
待機児童数 211 192 298 347 397 420 440

  ※保育定員数:認可保育園、認定こども園(1号認定を除く)、小規模保育所、事業所内保育所、認証保育所、保育ママの定員の合計


 少子化の進行により就学前人口(0~5歳)は減少傾向ですが、女性の社会進出などにより保育所に申し込む保護者は増加しています。そのために保育施設を新設して保育定員の拡大を図っています。また、平成30年度から育児休業を継続できる場合も待機児童数に含めているため、0歳児がほぼ半数(440人中226人)を占めている。

(2)導入の背景・目的
 認可私立保育園の新増設(平成30年16園、平成31年14園)により保育需要が高まり、事業者に対する保育士確保支援と保育士の職場定着・離職防止策として実施している。

(3)事業の概要・実績
 ①1万円の処遇改善(独自)
  ・区独自に1万円の処遇改善を実施。東京都キャリアアップ補助(4万円相当)と合わせると、国の基準に対して最大月額5万円相当の処遇改善となる。

年度 件数(人/月) 金額(千円)
29年度実績 1,430 171,510
30年度見込 1,606 192,760



 ②保育士就職祝い金(独自)
  ・区内私立保育施設採用の常勤保育士等に対して区内共通商品券5万円分を給付する。

年度 件数(人) 金額(千円)
29年度実績 245 12,250
30年度見込 351 17,550



③借上げ住宅の家賃補助(国の制度活用)
 ・保育事業者が保育士のために住居を借り上げた場合に月額8万2千円を上限に家賃を補助する。(国1/2、都1/4、区1/8、事業者1/8)

年度 対象者(人) 金額(千円)
29年度実績 399 269,535
30年度見込 500 380,000

江戸川区分は、約50,000千円



④保育士向け研修会や保育施設巡回によるサポート
 ・防災や子ども達の発達、手遊びなどの研修を実施。保育の質向上や定着支援のために各保育施設を巡回する。

年度 研修(回) 金額(千円)
29年度実績 2 211
30年度見込 7 252

 



≪所感≫
(1)江戸川区も本市同様に、0歳~5歳児は減少傾向ですが、保育ニーズは高く待機児童がなかなか解消できず、保育施設を新増設して対応しているようだ。また、江戸川区は千葉県との境で、保育士不足も深刻で、保育士という人材の争奪戦となっている。独自の処遇改善や就職祝い金、さらに、家賃補助まで出しているのには驚いた。担当の職員は、都が一応32年度までは補助するようだが、それ以降は不透明との事で、事業の継続を心配されていた。

(2)保育士向け研修会や保育施設巡回によるサポートについては、退職した園長経験者など四人に委託して、就職5年以内の保育士や就任後3年以内の園長先生を対象に、集合研修や各保育施設を巡回訪問して指導している。集合研修はどこの自治体でも実施しているが、経験豊富な方が巡回訪問しての指導は、多忙な現場の労働環境を考慮すると、経験の交流をはじめ、悩みの相談など効果があると思われる。

 

 


【日時】    2018年11月14日(水)10:00~12:00

【場所】    仙台市                             

【調査事項】  
        学校給食の公会計化について
        子供の居場所づくり支援事業(子ども食堂助成事業)について

【対応者】
    仙台市子供未来局 子供育成部 子ども家庭支援課 家庭支援係 係長
    仙台市教育委員会総務企画部健康教育課  課長
 


【調査概要】  学校給食の公会計化について

(1)制度導入の背景・理由について
  包括外部監査の指摘 
学校給食実施内容の格差・不均衡
   給食会計事務の学校負担

(2)制度導入までに要した期間
     平成20・21年度  包括外部監査指摘
     平成22年度     教育局内で取り組むことの意思決定
     平成27年度     先進地調査
     平成28年度     給食会計管理システム仕様書作成業務委託
     平成29年度     関係条例制定
     平成30年度     会計管理システム開発 学校・保護者周知等
     平成31年4月実施

(3)体制・予算
     28年度1名増員 30年度1名増員 31年度から3名増員予定
     システム仕様書作成業務委託  4,931千円
     システム開発    29年度     9,008千円
               30年度    77,715千円


(4)導入効果 
     学校現場全体で、年間6,000日分(約25人分)業務量軽減

(5)制度導入後の課題
     給食費の収納率低下
     教育委員会事務局の業務増加への対応
     給食費の調定に関する学校からの報告の正確性


≪所感≫
 本市においても平成30年第三回定例会で教育委員会が「導入について検討する」と答弁したことから会派として先進地として来年4月から実施予定の仙台市の取り組みについて調査をしたが、今後、当局が検討するにあたり、非常に適切な示唆をいただいた。
 導入するという意思決定から導入まで8年かかっているが、これは3・11東日本大震災で検討が中断していることから、最低3年が必要であることから本市においても導入の時期を設定し導入の計画を策定するべきである。
 次に公会計化になると給食費が平準化されることから献立も同じになるのではないかと危惧していたが、仙台市では、自校方式83校、センター方式103校あるが、それぞれの調理場で栄養教諭が独自の献立を策定して統一した献立ではない事が明らかになった。
 また、食材の契約が教育委員会と業者となることからいわゆる「地産地消」という食育の観点や地域の農家や業者との繋がりが絶たれるのではないかという危惧があったが、仙台市では、「地産地消」の考え方を残すために一部は、契約自体を地元業者とできるようにしたとのことであったが、本市で導入する場合もこの件については、十分配慮する必要がある。
 学校の教職員の業務量の軽減については、年間で6.000日、人員で言うと25人分が軽減されるとのことであったが、給食費の徴収について現状が違うことから本市では、更に多い業務量の削減になるのではないか
 今後本市において導入するにあたっては、可能な限り先進地の視察・調査を行い、アレルギーへの対応を含めて児童生徒、保護者、学校の教職員にとって何が大切なのかについて論議を十分重ねていくことが必要であることを痛感した。

 

【対応者】   仙台市教育委員会総務企画部健康教育課給食運営係 係長

【調査概要】 子供の居場所づくり支援事業(子ども食堂助成事業)について

1.実施するに至った背景と経過について(平成29年度から検討開始)
(1)アンケート調査・支援者ヒアリング等(平成28年度実施)を受けた現状分析
  ①不安定な家庭環境から、子どもに適切な生活習慣が身につかない
  ②DVや虐待などがあると、子どもの心身の健康に影響を及ぼす
  ③困窮世帯が身内や地域から孤立し、子育てについて周囲からの協力が得られにくい

(2)施策の方向性
  ①子供が周囲との信頼関係、愛着関係を持つために大人の関わりが必要
  ②安心できる居場所と身近な支援者を目指し、子どもの健やかな育ちを応援

(3)具体的施策:子どもの居場所づくり支援事業
   子ども食堂への助成、団体のネットワーク化等


2.事業内容及び実績について
(1)目的・助成内容等
  ①学習支援・交流・遊び体験等の子どもの居場所区づくり活動が助成要件
  ②助成対象経費に食材を含む
  ③運営団体のネットワーク化に取組む(保健所への届出義務

(2)予算規模
  総事業費12,000千円
   開設助成 事業費の4/5以内(上限10万円)
   運営助成    〃     (上限20万円)
   (平成30~34年度の5ヵ年間)

(3)実施体制
  ①助成制度の運営、助成団体相互のネットワーク化を市社会福祉協議会へ委託
  ②市は助成選定時の審査へ参加、必要な情報発信に取組む

(4)事業実績(平成30年10月時点)
  ①助成決定 23団体(新規11、既存12)
  ②第1回子ども食堂関連機関ネットワーク会議(H30.9.11)を開催
    助成団体を含む25団体が参加

(5)事業の効果について
  ①助成金支出による運営の円滑化、新規立ち上げ支援
  ②団体相互のネットワーク化、運営支援(HPによる広報・寄付受入れ等)


3.今後の課題・展望について
(1)各団体の継続運営
  ①助成期間5年後の継続的な運営
  ②運営ノウハウの共有化、食材の寄付先確保等

(2)支援を要する家庭との関係構築等
  ①専門的な支援が必要な世帯をと福祉支援につなげる
  ②支援者相互の連携のあり方の模索


≪所感≫
 子ども食堂は、子どもの貧困が叫ばれた2016年頃から開設され始め、本市においても複数運営されている(本市HPでは12団体)。
 当初は貧困対策として立ち上げられたが、「貧困」との言葉から利用しづらいとの声が寄せられ、現在は、子どもから高齢者まで誰でも食事ができる地域コミュニティの場との位置づけが主流となっている。仙台市においても、その目的が学習支援・交流・遊び体験等の子どもの居場所づくり活動への助成となっている。担当者も貧困対策でないことを強調されていた。単なる食事提供だけでなく身近な支援者による見守りにより、子どもや保護者のシグナルを見落とすことなく、適切な支援につなげることが肝要のようだ。

 翻って、本市ではどうか。基本的には運営者任せの対応となっており、関連する事業として「子ども食堂ボランティア行事用保険料補助金」のみである。
 子ども食堂が子どもの居場所づくり、気付きの場と位置付け、新たな行政サービスにつなげることで、結果として貧困の連鎖を断ち切ることなればと考える。現在、子ども食堂を始めようとしている市民に対して、その経済的な支援をすることで多くの子ども食堂が市内各所で運営されることで、地域のつながりはもとより子どもの貧困の連鎖を断ち切れるようにすることが行政の使命ではないか。

 先日、「森の玉里子ども食堂」を運営する齋藤美保子(鹿児島大学准教授)と話をする機会に恵まれた。現在運営されている子ども食堂は、概ね順調のようである。また、それぞれの運営団体との連携も図られるようになったとのことであったが、全体をコーディネートする人を求めておられた。そのためには、子ども食堂を運営する団体を把握することが必要となり、助成制度を通じて団体を把握することも可能ではないか。

 

 

2018年11月30日